歴史時代作家クラブ公式ブログ

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書評『室町小町謎解き帖 呪われた恋文』

書名『室町小町謎解き帖 呪われた恋文』
著者名 飯島一次
発売  双葉社
発行年月日 2016年5月15日
定価   ¥593E

 

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 飯島一次の『室町小町謎解き帖』シリーズの第二弾である。飯島には双葉文庫に限っても、『朧屋彦六 世直し草紙』、『三十郎あやかり破り』、『阿弥陀小僧七変化』といった人気シリーズがあるが、『室町小町謎解き帖』はつい最近始動したばかりの新シリーズであるに関わらず、すでに第二弾である。


 大阪生まれ江戸育ちの時代小説作家・飯島一次は無類の映画好き、映画を見ない日はないという。その上、街歩きの達人でおまけに人づきあいがよいことこの上なく、散策後の懇親会も深夜まで付き合ってくれる。いったい、いつ執筆しているのか不思議に思わざるを得ない“超人”である。

 

 本シリーズの主人公は日本橋呉服商「三浦屋」の箱入り娘お雪19歳。喜多川歌麿が錦絵に取り上げようとしたほどの超美人で「室町小町」として知られる。三浦屋の主の善右衛門は茶屋遊びもせず酒もさほど好きではない堅物だが、芝居道楽の末に家を飛び出し役者になった倅忠太郎と二階の奥座敷にこもりがちの娘お雪、二人の子供たちの先行きを心配している。特にお雪が捕物好きで首なし死体の一件で下手人を言い当てたと世間に広まれば、金輪際、婿の来手がなくなると気をもんでいる。
 三浦屋のお雪は単なる捕物好きではなく、「狐憑き」であるとの噂を広めたのは蔦屋重三郎である。蔦屋重三郎は歌麿に下絵まで書かせたうえに、「室町小町のきつね憑き、やっつく、やっつく、やっつくな」の戯れ唄を流行らせ、小町娘が人殺しの謎解きをするという戯作を十返舎一九に書かせようとしている。

 

 事件が起こる。
 神田お玉が池で、日本橋堀留町の質屋「上州屋」のひとり娘お松18歳が首を吊っているのが見つかる。
 なぜ首を吊ったのか、自殺か他殺か。
 上州屋には日本橋本石町の両替屋「阿波屋」の次男新次郎が婿入りすることになっていた。縁談も決まっていた娘の死に納得がいかない上州屋の主でお松の父親の彦兵衛は、お雪に、お松が死んだわけを調べてくれと依頼してくる。
 世間では三浦屋のお雪に狐が憑いていて、殺しの下手人を言い当てという噂が広まっており、その噂を頼りに、彦兵衛は娘の死の真相を狐憑きのお雪から聞き出そうとしているのだ。
悪事や変事の謎を解き明かしたいという願望のお雪はこの事件に興味を持つ。

 

同じことを彦兵衛に頼まれた人物がいる。「小舟町の親分」こと弁天の辰吉で、このシリーズの常連になるであろう人物と思われるから、詳しく紹介しておこう。辰吉は南町奉行所同心竹内小四郎の手先、商家の番頭風の40すぎの独り者。子分の貫太と通いの婆さんお兼がいる。お兼の作る茄子の田楽、いわしの生姜煮、大根と里芋の煮しめ、唐茄子の煮付けなどを酒のつまみとして一杯やるシーンには、読者の多くが相伴にあずかりたいと思うであろう。
 辰吉は、上州屋お松の首くくりの一件ばかりはどうにも先が見えないと思っている。自殺では捕物にならないからである。

 お松の死の真相に迫るにはどうすればよいか。
 上州屋を訪ねたお雪は、お松の母お久から形見分けとしてお松が使っていた硯箱を入手し、ある事実に気づく。二重底の硯箱には恋文が入っていたのである。本作の書名「呪われた恋文」の由縁はここにある。
 一方、辰吉と貫太はある妙な噂に気を留める。
 質屋であるはずの上州屋は裏で高利貸しの真似をしているとのこと。また、お松には上州屋の番頭をしていた清吉という言い交わした男がいたが、彦兵衛が清吉をクビにして生木をはぐように二人を引き離したというのである。
 お松は自殺であった。手を下さずに、お松を死に追いやったものがいる……。
 テレビの2時間ドラマスペシャルで、ビデオを巻き戻し、ドラマの冒頭に登場していた人物を確認したい衝動に駆られることがあるであろう。犯人は意外な人物であった。

 物語の時代背景は寛政8年(1796)。
「白河様がご老中を辞められても、少しはお世直しの締め付けも緩んでいるが」、「田沼様は酸いも甘いも噛み分けお方だった」という表現が、蔦屋重三郎、十返舎一九喜多川歌麿山東京伝らが生きた、松平定信以後の時代を巧みに写し取っている。
 江戸一番の美女が捕物の謎を解く。お雪の推理で事件は解決するのだが、本書は単なる推理小説では終わらず、寛政期の江戸の文化状況の一端を活写しているのである。
 江戸弁で綴られた文体と有無を言わせぬテンポのよさが小気味良い。背後に見え隠れた悪党をあぶりだすシーンはことのほか面白く、胸のすく思いがする。是非、本書を手にとって、読者各位が存分に味わって欲しい。

 

飯島一次(いいじま・かずつぐ)は1953年、大阪生まれ。2007年、作家デビューという。「愉しんでいただければそれでいい」とおっしゃるエンタ―テナーであるが、歴史知識も豊富で、大いに注目したい歴史時代小説家である。
(平成28年5月23日 雨宮由希夫 記)